このページには稽古照今録の最新記事のみを掲載致します。
稽古照今録の全記事はこちら → 合気道 神楽塾 「稽古照今録」

 

合気道の書籍紹介(10) 砂泊諴秀先生

万生館合気道 館長 砂泊諴秀先生。九州熊本を拠点する一大門派。
「合気道」(著者吉祥丸先生・監修盛平翁 発行:光和堂)という、初めて世に一般的な合気道の書籍として出版された本があります。
そこに全国支部道場と責任者の名が記載されているのですが、その時点で砂泊先生は熊本県支部(六段)と記載されています。
同六段ですと、山口清吾先生、斎藤守弘先生、田中万川先生、などなど大先生方が名を連ねます。
後に開祖から9段位まで允可されるほどの大先生です(9段位まで允可された先生は数えるほどしかいない)。
開祖がお亡くなりになられた後、「万生館合氣道」として独立されました(1969年)。
その影響力は大きく、九州の合気道は万生館道場がそのほとんどと占めていたのではないかと思われます。
砂泊先生の合気会退会を受け、新たに合気会からは菅沼守人先生が九州に派遣(1970年)され、
菅沼先生の実力とご人徳で祥平塾道場はその後大きく飛躍されますが、それでも砂泊先生に薫陶された方はとても多いと思います。

私のご縁頂いている、橋本國瀧先生は砂泊先生の内弟子であられた方で、思い出話などもけっこう聞かせていただきました。
島根に講習会に来て頂いた折に「合氣万生道」の・・・とご紹介申し上げた所、「万生館合氣道」とのご訂正を頂きました。
調べてみると何回か名称が変わっている様です。私が初めて砂泊先生を知った時は、合氣万生道の名で通っていたのです。
橋本先生ものちに「合氣の家」を立ち上げられ万生館から独立されるのですが、「私は誰よりも砂泊先生を尊敬していた」と仰っていました。
橋本先生は私の合気道人生の中でも、特段に別格の先生の中の御一人です。
その橋本先生をしてそう言わしめる砂泊先生。
それだけで十分に砂泊先生を想像できてしまいます。

また万生館出身の高名な先生が私のお師匠様(正岡師範)とご縁があった事があります。
その方が師匠を「まるで砂泊先生が現代に甦ったようだ」と評されました。それが7~8年程前でしょうか。
私のお師匠様は全国的には全くの無名ですが、その実力は精神性まで含め、群を抜いています。
砂泊先生とはお師匠様クラスか!?と驚くのが失礼にあたる事は重々承知の上、
しかし、それでも正岡師範は本当に達した御方なのです。
同時に砂泊先生と比肩され評されるお師匠にも驚いたものです。
比べる、というのも不遜でおかしな話ではありますが、やはり合気道は武ですからね。
天(理想)ばかりを語っていても、地(実行)がなければ空論でしかありません。

さて、そんな砂泊先生の是非お勧めしたい一冊はこちら!

<合気道の心を求めて(正・続)>

昭和の時代に発売された本ですが、現代にも通用するお話満載の書物です。
大切な事、守るべき第一義というものは時代を少々経てもそうは変わらないものです。
特に第一巻(正)の方をお勧めしたいですね!
全390ページの分厚い一冊です。少しばかり項目を列挙してみます。
・合気とは愛なり ・人類滅亡への道 ・想念の世界 ・去る年、来る年
・無駄 ・開祖植芝盛平翁逝いて八年 ・合気道の稽古の中で ・呼吸力
いかがでしょうか?興味が沸いてこられませんか?これだけ挙げても1/10程度です。
開祖関連の貴重な写真も豊富に掲載されています。しかしなんと言っても、
表紙の開祖がもう異次元ですね!凄まじい写真です。一眼二足三胆四力、と言いますが
その一つ目!一眼。眼力が写真越しにすら物凄い!!二足。今にも写真から出てきそうです。
いや、そういう事じゃねーよ、運足の事だよ、と言われそうですが、凄いのだから仕方ない。
三胆。肚の坐りが異常、渦巻いてる様です!四力。全身から力(この場合、氣)が漲っている様です!
歩く姿が武である、という一言がこの写真一枚で納得できてしまいます。
開祖の写真は多数残されていますが、この写真は上位5枚(ブログ主の主観)に入る渾身の一枚です!

開祖にお仕えされたと言えば、第一人者は斎藤守弘先生で文句なしだと思いますが、
開祖を深く想い続けた事で言えば、決して砂泊先生も負けず劣らずでしょう。
この本を一読して頂ければ、と思います。
製本も砂泊先生の出された本は晩年に出された2冊を除けば、全て箱付きの立派なものです。
この本は技術本ではなく、それこそ「心」の在り様を説かれています。
砂泊先生の合気道への想いを綴った本です。なので基本的に文章で構成されています。
技術的な本は「合気道の心・呼吸力(正・続・続々)」の三冊が出版されています。
こちらの本は、技の連続写真豊富な書籍になっています。
現物がなくて写真を載せられないのが申し訳ない。
タイトルが似ているので、注意が必要です。

この他に、御令兄の兼基先生の書籍も二冊ご紹介。(開祖書籍紹介でも少し触れていますが)
兼基先生は雅号を「砂泊氣海」と名乗られています。臍下丹田の事を別称「氣海丹田」(多分同じ処を指すと思う)
と言いますが、おそらくはそこからかと。
また氣海先生の肖像、近影が載っているのですが、まさしく武人と言った佇まいです。
まるで小説の中の人の様な程に!

<氣海先生 近影>

この二冊、実は「盛平伝」の改訂版が「武の神人」であり、内容は似通っています。
読みやすいのは圧倒的に後者であり、是非お勧めさせて頂きたい一冊です。
ところで、砂泊諴秀先生は本名を兼平と申されます。まだよく知らなかった頃は困惑しました。
と言うのも、諴秀先生は全国的(合気道界隈)にとても有名なのですが、兄上の兼基先生は万生館道場の人ならまだしも、
一般の合気道愛好家にそれほど広く認知されてはいないと思います。(ご存命当時は分かりませんが)現代なら尚更です。
著者を見ると、兼平?兼基?諴秀?ん?誰が誰?同じ人?
砂泊なんて珍しい苗字(全国人数60人くらいだとか)だし。う~~ん。。って感じでした(笑)

<合気道開祖植芝盛平伝・武の神人>

そしてもう一冊は、「合気道悟道」。砂泊先生最後の書籍は「合気道で悟る」となります(未所持)。
私家版的な何かが、砂泊先生ならもしかしてあるのかも知れませんが、公の出版物としては最後の書物です。
DVDも販売されています。私のYouTubeチャンネルでも少しですが砂泊先生の動画をアップロードしております。
それは個人撮影のものなので珍しいと思います。
ご興味のある方は是非ご覧ください。偉大な先達先生の哲学、思想、技術。勉強になるかと思います。
砂泊先生の体術は勿論凄いのですが、ひときわ目を引くのは杖術です。
有名な岩間の斎藤守弘先生が翁先生の教えを整理して考案された31の杖は合気会のみならず養神館合気道道場の一部でも
稽古に取り入れられるほどの基本の型になっておりますが、それとは全く別の進化を辿ったと言いましょうか。
習う方(一般合気道愛好家)からしたら、どちらが合気杖なの?って悩んじゃいます。
片や斎藤先生は開祖直々に本部道場で剣・杖の指導を許された唯一の師範だし、
片や砂泊先生の杖は開祖の正勝棒術、または晩年の杖そのものに見えます。
分かり易く言えば剛と柔の差と言っても良いと思いますが、やはり言葉足らずで語弊がある感が拭えません。
私は斎藤先生の杖を地の型(基本・基礎)、砂泊先生の杖を天の型(天衣無縫)、という認識でいます。
どちらも紛うことなき開祖の杖だと思います。

<DVD 無限の呼吸力・合気道悟道>

本項の結びは、やはり「呼吸力」について、これを語らずには終われないですね。
砂泊先生は生涯を懸けて「呼吸力」を研究、研鑽され、「呼吸力」こそを追い求められましたのだと思います。
本にもDVDにも、タイトルに概ね「呼吸力」を冠しておられます。
またお弟子様である、虚心平氣様(神楽塾YouTubeにてコメントくださった方)も、
「呼吸力」は、館長が生涯探求され磨き上げられたものです。とご意見くださりました。
間違いないと思います。

砂泊諴秀先生曰く、呼吸力とは
「陰と陽という言葉があるが、これを一つ一つ言う場合はそれは独立したものである。
 それが一つに結ばれる動きが呼吸であり、そこから出てくる力を呼吸力と言うのである」

                                            令和6年 4月22日

 

追記)
およそ他の道場にはない(多分)、万生館独特の技法(手の所作)として「掌法(たなごころ法)」
(私が勝手にそう呼んでいるだけ。正式名称があるのかすら知りません)
というものがあります。
私はその所作によって、飛躍的に合気道の理解が進みました。
これは秘伝と言って差支えのない極意だと思います。
また機会があれば、その事にも触れてみたいと思います。